ウェルビーイングの研究に基づき
フィットネスサービスをデザインする

佐藤晋太郎さん プロフィール
早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授
Sport & Entertainment Management Lab. 主宰
北海道教育大学卒業、早稲田大学修士課程修了、米フロリダ大学でPh.D.取得。 
その後、米ジョージアサザン大学助教授、米モンクレア州立大学ビジネススクール助教授、
米ニューヨーク市立大学バルーク校ビジネススクール客員研究員、オタワ大学Ph.D. 指導教授を
経て、2019年9月より現職

心理学と経済学としての「ウェルビーイング」

早稲田大学スポーツ科学学術院で、エンターテインメントマネジメントの視点から、スポーツ領域でのウェルビーイングについて研究をする佐藤晋太郎さん。
学術的な研究者の間では、近年「ウェルネス」より「ウェルビーイング」のほうが注目度がはるかに高く、2022年時点で、ウェルビーイングの論文数は、ウェルネスの5~6倍にもなっているという。
「 ウェルビーイング」の研究が盛んになされている背景として、「ウェルネス」は公衆衛生学からスタートした学問であるのに対して、「ウェルビーイング」は、心理学や経済学からスタートした学問であり、4つの構成概念に、それぞれ3~6の副次元からなるフレームワークとして整理され、多次元かつ理論的に捉えられている。
ただ、「ウェルビーイング」におけるビジネスを考える場合、概念が多次元であるからこそ、分かりやすさや、ワンストップでサービスが受けられるようにすることが求められてきていると佐藤さんは指摘する。
「ここ数年、人々のウェルビーイング度を高めるサービスが、オンラインでも、オフラインでも乱立しています。ただ、サービスが多様なプラットフォームでバラバラに展開されると、生活者にとっては、多くのサービス事業者とコミュニケーションをとることになり、生活の中でのタスクが増えます。これがストレスになって、ウェルビーイング度を下げてしまうことにもなりかねません。できるだけワンストップで、多次元のサービスが受けられるプラットフォームが求められています。『魅力的で、簡単で、煩わしくないウェルビーイングコミュニティの形成』が今後のカギになります」

ウェルビーイングの4つの視点

フィットネス指導者は、「ウェルビーイングクリエイター」へ

ここでは、まず「ウェルビーイング」の構成概念について理解を深めたい。
「ウェルビーイング」は、4つの視点から研究が進められているという。
この4つの視点で見ると、フィットネスは、上記4の身体的ウェルビーイング領域において大きな貢献をしてきたが、今後、フィットネス指導者としては、1~3の視点からのウェルビーイングを視野に入れたサービスデザインが求められる。
その一方で、ウェルビーイングがこのように多次元であることを考えると、身体的ウェルビーイングを高める専門家として、専門家同士のネットワークの中でサービスを提供していくことも求められている。そうした視点から、フィットネス指導者は「ウェルビーイングクリエイター」の一人として、自身の専門性を活かしながら、カウンセラーやライフコーチなど、その他の分野の専門家とコラボレーションしていくことも有効な施策となる。

「人とのふれあい」と「多様性の受容」がウェルビーイングを高める

スポーツとウェルビーイングの研究も進んでいる。
佐藤さんは、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップの際に、大阪体育大学学長の原田宗彦さんと共同研究を実施。ラグビーワールドカップの観戦者だけでなく、開催地の住民にも調査を行い、「心理的資本」に着目して、スポーツがウェルビーイングに与える影響についてまとめた。
「心理的資本」とは、「未来に対して希望を持ちながら、困難があっても一歩ずつ進むしなやかな心のエネルギー」と定義し、「希望(HOPE)」「楽観性(OPITIMISM)」「柔軟性( RESILIENCE )」「自己効力感( SELF EFFICACY)」の4つの側面から測定している。
本研究では、ラグビーワールドカップ大会開催直後の心理的資本が、2ヶ月後の時点での住民のウェルビーイングに影響を与えるか検証がなされた。その結果、大会によって育まれた「しなやかな心のエネルギー」は、開催地の住民のウェルビーイングを高めることが分かったのである。
さらに注目を集めたのは、国際的スポーツイベント招致による経済的インパクトよりも、社会的な要因のほうが、心理的資本の向上に一役買うという点である。
特に、心理的資本を高めた要因として抽出されたのが、「人とのふれあい」と「多様性の受容」。他国の選手とのふれあいや、他国の文化などに触れることで、新たな出会いや発見があったことが、未来への希望に繋がり、心理的資本が高まることにつながったと結論づけられている。今後の、スポーツを起点にしたウェルビーイングサービスを構築していくうえで、参考にしたい調査結果となっている。

ラグビーワールドカップ招致による経済インパクトよりも「人とのふれあい」「多様性の受容」がウェルビーイングを高めた。
(写真はイメージです)

ホモサピエンスの研究が示唆する、アウトドアでのグループアクティビティの体験価値

ウェルビーイングの研究では、人間を「ホモサピエンス」として、霊長類の習性に着目した研究も進められている。人間は、ホモサピエンスとして600~700万年の歴史を持つ。現代のような生活をしているのは、せいぜいこの50年程度と考えると、我々現代人が当たり前のように生きている環境や使っているモノは、あまりにも「新しすぎる」のである。ホモサピエンスとしての歴史を1年間として換算すると、現代的な生活をしているのはせいぜい5~6時間程度である。丸1年間一生懸命自給自足の生活をしていた人物に対して、大晦日の夕方くらいにいきなりリモートワークを強いるくらい「新しすぎる」のである。
つまり、人間のウェルビーイングを高める要素は、我々が慣れ親しんだ原始的な行動習慣にヒントがあると考えられる。
この視点から、ウェルビーイングに繋がるフィットネスプログラムをデザインするうえで役立つ3つの視点を紹介してもらった。

ホモサピエンスの研究が示唆する、アウトドアでのグループアクティビティの体験価値
ホモサピエンスの研究に学ぶ
ウェルビーイング度を高めるフィットネスプログラムデザイン3要素

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