フィットネスを、サービスドミナントロジックで
「ウェルビーイング」ビジネスとして位置づける

大川耕平さん プロフィール
株式会社スポルツ代表取締役
HealthBizWatch編集主幹
1999年創刊健康ビジネス情報メールマガジン(HealthBizWatch)は約5千部配信中。
健康&well-being領域の商品サービス開発や新事業立ち上げを目論む企業マッチングのサポート
とスモールビジネスやスタートアップのトメンターとして活動。
2022年よりProject & well beingコンセプト(プロジェクトとステークホルダーのウェルビーイン
グを同時に目指す)CONDITIONIG LABO For BizAthleteスタート

ビジネス視点で見る「ウェルネス」と「ウェルビーイング」の関係

健康ビジネス・サービス領域を専門に、新規事業開発やマーケティング戦略づくりのサポートをしてきている、株式会社スポルツ代表取締役の大川耕平さん。長く世界内外の健康ビジネス・サービスの動向を見てきている立場から、まず「ウェルネス」と「ウェルビーイング」の関係をこう説明する。
「基本的に2つはほぼ同じ意味ですが、使われ方に若干の違いがあります。『ウェルネス』が注目され始めたのは、日米ともに2000年前後からです。主に職域における健康づくりムーブメントの中で、『ワークプレイスウェルネスリーダーをつくりましょう』という取り組みが進められました。一方、『ウェルビーイング』は、日本では2019年から急に使われ始めましたが、近年北米圏でスケールしているビジネスモデルを分析すると、既にこの『ウェルビーイング』のフレームワークを持っています。例えば、『ウェルネス』は職場づくりやまちづくりなど、ハード面での施策に寄りやすく旧来型健康産業との親和性があり、『ウェルビーイング』はICT活用の新しいサービス業に親和性がありそうです。

「ウェルビーイング」は、サービスドミナントロジックによる価値共創がカギ

そして、フィットネス事業者や指導者が、サービス事業者としてウェルビーイングに取り組もうとする場合、「サービスドミナントロジック」の視点から、ウェルビーイングの価値づくりをサービスに設計していく必要があることを指摘している。
「サービスドミナントロジック」とは、顧客が商品やサービスを購入するだけでなく、利用して初めて価値が生まれ、利用すれば利用するほど、体験価値が高まるという「価値共創」のビジネスモデル。その対比となるのが「グッズドミナントロジック」で、企業が価値や価格を決め、顧客はその対価を払うことで商品を獲得する「価値交換」のビジネスを指す。
大川さんは、日本の職域で広がった「ウェルネス」とともに、特定保健指導などで広がった「ヘルスケアブーム」で、健康産業をリードしていくと注目していた事業プレイヤーは主に3つで、①健康機器メーカー、②フィットネスクラブ、③健康食品メーカーを挙げている。
その中で、サービスドミナントロジックへとビジネスモデルをシフトさせ、現在も成長しているのは③健康食品メーカーだけだと分析する。
フィットネス事業者は、今一度、このサービスドミナントロジックへの理解を深め、顧客ウェルビーイングに向けて価値共創できるビジネスプロセスに組み込むことで、ウェルネスやウェルビーイング市場からの顧客流入も期待できると話している。

サービスドミナントロジックの概念図

ウェルネス市場の中でも、特に注目される「メンタルウェルネス」

世界のウェルネス市場の動向をまとめているグローバルウェルネスインスティチュートによると、2020年時点でのウェルネス市場規模は477兆円(4.4兆ドル)とされており、内訳は表のとおりとなっている。
特に大川さんが注目するのが、「メンタルウェルネス」市場動向である。米国では、メンタルヘルス専門薬局や、オーディオヒーリングなどが注目されており、メンタルヘルスアプリも、利用するほど使用価値が高まることから、月数万円もの高額の課金オプションが提供され始めているという。
テクノロジー分野でも、「次世代メンタルウェルビーイング」として、デジタルが行動変容や心理療法をサポートするゲームが注目されている。医療の世界でも活用が進み、「ゲーム処方」として、通常の薬と同様に専門医から「処方」されるものも出てきている。
また、ヘルスケアビジネスのマーケティング手法として、「ジェネレーション別」「性格別」に、サービスを変えていくことが要諦となってきており、今後どの市場を狙うにしても、顧客一人ひとりにとって、意味のあるものとしてフィットネスサービスを位置づけ、コミュニケーションしていくことが求められている。

ウェルビーイングのフレームワークの中で、フィットネスの体験価値を高める

具体的には、「ウェルビーイング」に繋がる3大欲求、①交流がある、②自分で選べる、③自分が成長できているという感覚を持てるという要素を、フィットネスサービスの提供プロセスに組み込んで、顧客とのコミュニケーションを変えたり、「ウェルビーイング」に繋がるアイテムをフィットネスと結びつけて提供することも考えられる。
大川さんは、フィットネス事業者が気をつけたいこととして、フィットネスサービス自体が既にウェルビーイングアイテムとして有効な要素を持っていることから、提供施設やアイテムをむやみに変えるのではなく、顧客とのコミュニケーションの方法や、全体のカスタマージャーニーを再編成することで、顧客とともに共創できる価値を明確にし、ウェルビーイングサービスとして位置づけていくことが肝要だと話している。
ウェルビーイングアイテムとの連携事例としては、例えばApple WatchやFitbitなどのデバイスと、活動や睡眠計測アプリなど、自身のデータがたまるほど使用価値も高まるアイテムに、プロテインや寝具のサービス、勉強会やリトリートなどのコミュニティやレクリエーションサービスを組み合わせるなど。こうしたウェルビーイングアイテムによる価値創造のフレームワークに、フィットネスサービスを組み込むことが、今後有効なアプローチになると大川さんは説明する。

「ウェルビーイング」につながる心の動き
「ウェルビーイング」アイテムのフレームワーク

世界のウェルネス市場は2020年の発表で4.4兆ドル

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